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城郭談話会 第4回 特別例会

考古資料〔遺構・遺物・層位〕から城郭建築〔作事〕に迫る!
その可能性と限界を探る

終了しました

日時 2021 年 327(土) 930 17
   通常例会の第2土曜日ではなく,第4土曜日です
会場 滋賀県立大学 A2棟 202 大講義室 ←変更後アクセス > 構内図
主催 滋賀県立大学中井研究室
   城郭談話会特別例会実行委員会

会員限定で開催しました
昨今のコロナ禍を鑑み,城郭談話会 会員限定で開催することになりました.
資料集は,後日 各研究会場等で頒布する予定としております.
会場の訂正 3月26日 ← 会員限定 3月9日 ← 無観客 1月24日 ← 延期 5月8日 ← 2020年3月31日 掲載)

近大シンポジウム 2018 の画像 (C) 堀寛之

■ 開催日程 (敬称略

09:00 受付開始
09:30 開催挨拶・全体説明
09:40〜10:00「山城から検出された礎石建物の検討 問題提起にかえて中井 均 (滋賀県立大学)
10:00〜10:20「縄張り研究の立場から考える城郭の作事 発掘調査成果を再考する髙田 徹 (城郭史料研究会)
10:35〜11:20「出土瓦からみた屋根景観に関する試論」山口 誠司 ((公財)滋賀県文化財保護協会)
11:40〜12:40 昼食休憩
12:40〜13:25「発掘調査から見た建築 関西の城郭を中心として山上 雅弘 ((公財)兵庫県まちづくり技術センター)
13:45〜14:30「考古資料(柱穴・礎石)から城郭の建物の姿を推定できるのか」木島 孝之 (九州大学)
15:00〜15:20「(奈良・平群町)椿井城跡の礎石建物遺構について」葛本 隆将 (平群町教育委員会)
15:35〜15:55「京極氏館の構造」高橋 順之 (米原市教育委員会)
16:10〜17:00 総括討論
17:00 閉会挨拶・事務連絡

■ 趣旨

城郭跡の発掘調査では,礎石建物や掘立柱建物が検出される.もちろん建物そのものではなく,見出されるのはいずれも建物痕跡の礎石や柱穴等である.状態が良ければ,掘立柱の根元や柱・梁等の部材や木舞をともなう壁土が出土することもある.火を浴びていれば礎石の上に,柱の形が残されていることもある.中世城郭では一般的と言えないけれども,屋根を葺いた瓦が出土することもある.

考古学の立場・使命・役割としては地中に埋没した遺構・遺物を科学的に(決められた手法に則って)明らかにし,そして発掘調査で得られた成果・結果を正しく記録化することを基本とする.礎石や柱穴の形態,レベル,層位,共伴遺物について触れることは必要不可欠である.個々の礎石・柱穴がどのように結びついて建物を構成していたかを明らかにすることも求められる.

考古学の立場で積み重ねられた成果・結果は,発掘調査報告書として著され,考古学者は言うに及ばず,城郭研究に携わる縄張り研究者,あるいは文献史学者・建築史家らにおいても基礎資料として広く活用される(あるいは活用されることが期待される).それが考古学者のなすべき基本であり,かつ責務なのであろう.

もっとも考古学の立場からは,礎石や柱穴の上部構造,つまり作事(建築)そのものへの言及はあまり見受けられない.限定された遺構から作事に踏み込むことに対して慎重であるのか,守備範囲外の如き扱いのように感じられる(稀に,かなり大胆な上部復元・推定を見かける)ことがある.

確かに地中から見出された遺構・遺物は,建物の全体からみれば極めて断片的に過ぎず,全体構成を明確にさせることは難しい.建物個々の性格についても,一般論に照らして位置付けやすい遺構であるか,もしくは特徴的な遺物が共出していなければ,評価しづらいものとなる.城郭ならば櫓・蔵・番所・厩等が候補として挙げられるが,ややもするとステレオタイプ的な評価に陥りやすい.中には比定される建物に対し,疑問視されるものさえ含んでいる.

例えば,塁線から離れた曲輪内に,単独で櫓を推定する遺構評価がある.多くは正方形に近いこと(直上が寄棟になることを想定か?),柱穴の直径や深さ等を通じて,堅牢な建物,あるいはスリム(≒高層?)な建物がイメージされ,櫓を推定しているのではないかと推察する.

個々のケースはそれぞれ詳細に検討する必要があるし,一概に櫓ではなかったと言い切ることはできない.それでも果たして妥当な評価なのか?と思えてしまう例がある.穿った見方かもしれないが,そもそも推定する建物の性格に対する選択肢が限られており,限られた中で無理に位置づけようとした結果,落としどころが櫓になっているのではないか.

いずれにせよ限定された遺構・遺物から建物の全貌を明らかにするのは,元より不可能に近い.それでも礎石や柱穴,それらの周辺遺構等に対して一層注視することで,作事の一端を明らかにすることができるのではないか.いくつかの選択肢を用意することも可能となるし,可能性を広げ,思考の幅を広げられるのではないかと愚考する.出土する遺物(瓦,木舞,垂木等)に対しても同様に,作事の一端を明らかにできる情報を内包している可能性がある(はずである).もちろん,可能性をただ広げるだけではなく,出来得る限りの絞り込み,蓋然性の低いものを排除できるよう努めるべきではある.

何より,立体的な建造物の存在を前提に遺構・遺物を読み解いていく視座が必要ではないか.そのためには建築史,関連する建築遺構への知識を広げる努力が求められる.最低限,建築史家と対等な議論のキャッチボールができるよう,ならねばなるまい.

一方,上部構造としての建築に関しては建築史家によって言及がなされ,さらに建物の推定復元がおうおうになされている.建築史家として面目躍如の場となり,まさに独壇場でもある.専門家による推定復元であるから諸々の根拠(現存建築の類例,構造的な理解等)を元としているのは間違いあるまい.しかしながら,概して考古学的な遺構との接点部分において,考察あるいは言及が不十分に感じられる.全てがそうだとは言わないが,遺構との接点部分に対する考証・論述がブラックボックスとなっている面がありはしないだろうか.

そもそも中世城郭に存在した建物のほとんどは,簡素な材料を用いた軽微なものが多かったことであろう.大抵は長期にわたって維持されたわけではなく,それとて転用されるとか,燃料と化すとか言った処置が多かったのではないか.そのためであろう,明らかな現存建築は残されていない.

建築史家とて,このあたりの事情を十分認識していることであろう.それでも,ベースとせざるを得ないのが絵画資料(「一遍上人絵伝」「男衾三郎絵巻」等)や後の民家建築等に限定される.そのためか,建築史家考証による城郭の復元建築,復元模型等はどれもこれも似たり寄ったりである.

今日建築史家が対象としているような,維持保存の対象となる恒久性の強い建物が中世城郭においてどれだけ存在したことであろうか.私見ながら織豊期の城郭であっても,100年以上のスパンで残ること,維持されることを想定していた建物は,まずなかったと考える.せいぜい数年,場合によっては数日単位で保たれたのならば良し,とする程度の認識であったと想像する.

それでも建築史の方法・見方によって推定復元を進めること,試みる思考は必要と考える.その上で建築史家は,考古学者に対して丁寧かつ客観的に伝える努力を試みて欲しい.概して断定的あるいは確定的に語られる建物復元ながら,複数の選択肢が得られる場合は多々あるはずである.商業ベースとの関りもあるのだろうが,例えば安土城天守に関わる“復元の決定版”なる見出しを見ると,どうにも胡散臭く思えてしまうのは否めない.かえって真実から遠のく感があるのである.

それはともかく,発掘調査の記録である発掘調査報告書は,何も考古学者,建築史家に独占されるものでも,限定して利用されるものではない.一定のルール,マナーに基づけば,基本的に誰でも利用可能となる.利用可能な環境を作らねば,公刊した意味がない.破壊と引き換えに記録・公刊された考古資料を,もっと広く,多角的に検討対象にしなくては実にもったいない.

縄張り研究者にとって縄張り図作成は,資料作成作業に等しいけれども,発掘調査された遺構も分析対象としてしかるべきである.むしろ守備範囲とせねばならない.さらに考古資料を読み込んだ上で,上部構造に言及していくべきであろう.そのためにはもっともっと発掘現場に足を運び,報告書を熟読し,考古学を学ばねばなるまい.

併せて縄張り研究者(に限らないが)は考古学による従来の評価に対して,見直すべき点や異なる解釈の余地はないか等も熟考すべきである.従来の評価に対案を示すことができる場合も,複数の選択肢を示すことができる場合も,あるいは現状でははっきりした答えを見出さない(のが妥当な)場合もあるだろう.まずはじっくりと個々の事例検討から始めてみてはどうか.

本特別例会での報告・質疑応答,そして全体討論を通じて考古資料からどこまで建築(作事)が明らかになるか,その可能性と限界について互いに認識を深めていきたいと考える.

(髙田 徹)

■ 参加申込み等

第3回特別例会は,従来あまり手つかずの分野である近代の城郭をテーマにしましたが,いずれも興味深い報告内容であり,参加者は100名を越え,成功裡に収めることができました.

今回は会場を滋賀県立大学に移し,中井研究室の全面的なご協力のもと開催いたします.たくさんの方々に御参加いただき,有意義な討論を行いたいと考えております.ぜひ,皆様ご参加下さいますよう,お願い申し上げます.

※ 調整中の項目や参加申し込み等は,配信する後報でお知らせする予定です. (削除: 令和3年3月9日)

令和2年9月1日        
城郭談話会特別例会実行委員会


更新 2021-03-27 ← 03-26 ← 03-09 ← 01-24 ← 2020-09-02 ← 05-08 ← 04-14 ← 03-17 ← 2020-03-16 作成

中世城郭研究会は,掲載内容についていっさいの責任を負いません.お問合せにも応じられません.

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