色によって、幸福感をもったり、清々しさを感じたり、あるいはリラックスしたり、奮起、興奮したり、ときには深いな気分にさせられたりといろいろな作用がある。色彩の力を最大限に活用することで、よりよい生活をいとなむことができる。
消費者の立場から考えると、色によって快適な空間を楽しめるだけではなく、自分をよりよく表現できたり、その人らしさまでもアピールできる。日用品をはじめとして、まったく同じ品質、形状の商品であっても色違いで購入してしまうことは頻繁にあるだろう。
生産者の立場から考えると、商品開発、店舗開発、またカタログ、パンフレット、ダイレクトメールの色使いまで、色彩とマーケティングは切り離せない。もちろん、色彩の力だけではよい結果は得られないが、色彩をうまく利用することによって、商品価値を高め、購買意欲を促進させられる。また人気の色、固定客の色の好みを掴めれば、仕入れの量をよめ、無駄な在庫を抑えられる。そして職場に色彩をうまく取り入れることで、やる気の出る、働きやすい環境に変えられる。
また営利目的だけではなく、健康な人が感じる心地よさは、医療や福祉の一環として利用できるはずだ。待ち時間を実際より長く感じさせたり、恐怖感を募らせる待合室の色彩はよくない。
以上のことのように、色彩は生活と密接しており、個人はもちろんのこと企業は色彩を効果的に利用しなければならない。どの企業も品質、価格ともに工夫を凝らし、多様化している現代だが、商品自体は似通ったモノが多い。よい商品も広告や宣伝によっては人々の目に止まらない。品質のよい商品を取り扱っていても、色彩のバランスの悪い商品は価値を下げてしまうのではないだろうか。
心理学では、選択した色によって、どのような心理状態にあるかを判断したり、また人にどのような効果をもたらすか研究されている。
薄暗い汚れた部屋で夫婦喧嘩が絶えなかったが、部屋を明るくきれいにリフォームしたところ喧嘩がなくなったとか、不眠症の人が部屋を落ち着いた色に塗り替えたところ、よく寝られるようになったとか、いろいろな効果を色に求めることができるようだ。
また人は天候や体調、景気の動向、社会情勢の変化などに敏感に反応して、本能的に状況に応じた色を選択するとも思われる。つまり、晴天の日には、カラフルな色合いの衣服を、雲天や雨降りには少し沈んだ色合いの衣服をさほど意識せずに選択している。また体調の悪いときには暗い色やくすんだ色、ぼやけた色合いを好みやすいという。そして経済環境にも敏感に反応して、好景気には白を中心に明るい色を使った商品が好まれる傾向にあり、また不景気には沈んだ色合いのグレー系や黒系の商品が主流になることが多いように思われる。
街で見かける乗用車の色を例に挙げる。バブル崩壊直前までは人気色は白系が主流であったが、崩壊後は活気のない周囲の環境に合わせたように、主流が黒系に変わってきた。本来カラフルである女性ファッションについても同様の傾向が見受けられる。
このような色に対する人の反応を巧妙に利用している企業もある。例えば、商品の悪いイメージを払拭するために作られたテレビコマーシャルにも見出だせる。「百害あって一利なり」のタバコのCMでは空気のよい南極の青空に真っ白な氷山をあつらえて、清々しさと健康を強調し、イメージアップをはかっている。国産・輸入品を問わず、すべての企業が同様のを流している事に気が付く。
またカラーフィルムもいくつかのメーカーが市場に参入して、それぞれ激しい競争が展開されている。どのメーカーのフィルムも品質面や価格面で大差ないにもかかわらず、フジカラーは他の追随を許さない。
その理由は、日本色彩学会会員である高坂[94]によれば、フィルムのパッケージにあるという。人の憧れる自然の緑、これを目立つ色合いに工夫し、補色の関係にある赤を配色して、遠くからでも目にとまるようにしている。そしてさらに、店内の明るさも配慮して光の役目をする白色や金色を加え、”より目立つ”を意識して、バランスよく配色されているという。もちろん、あらゆる媒体を駆使しての宣伝力も無視できないが、手の中に入るパッケージにでさえ、単にきれいというだけでなく、心理面から推し量るべく大変な努力をはらっていることが分かる。
また高坂[94]はこう述べている。
”生活者の使う色は、市場のサインである。何を求め、何を好ましいと感じているかすべては使われる色で読み取れる。また商品のパッケージはもちろんのこと、提供されるサービスの周辺にある建物や制服、カードなどの色は、商品の売れ行きやサービスの利用度を左右し、企業イメージに影響を与える。”
このように、近年すべての消費活動や経営活動は、色によるイメージ合戦となりつつあり、企業にとって避けては通れない大きな課題となってきた。すでに2000種を超える色を作ることができる光学なソフトまで開発されており、企業の色に対する関心の強さが分かるとともに、色に関するあらゆる面からの専門的知識の必要性を強く感じる。
高坂は警告している。
”これからの経営者、商品開発者と街づくりの責任者、営業関係者、広告関係者等は、色の専門家にならなければイメージの戦争に勝ち残れない。色でよみ、色で宣伝して、色で売り、色のイメージを企業イメージとして記憶してもらうには、色の基本を学習した人で、色に強いチームを作る必要がある。常に色の観点から物事の関わっていく体制をつくっていかなければならない。”
企業は色の効用をさらに研究し、外に対する攻めばかりでなく、内部に向けた、例えば組織の充実、社員の意識高揚、工場の安全管理、社員の健康管理、一段の工夫を凝らすべきである。