暗号解読の一般的な手順(古典的)
- 言語の推定
- 方式の推定
- 文字頻度とその特徴
- 連接特徴(文字の連続のしかたと頻度)
- 何度か現れるパターン(単語かその一部)
- 出現しそうな単語 (probable words) の推定
- 単語の区切り(これがあると攻撃は容易)
改訂 2005-04-27 (C) K. Nishimura 2003
解読演習: “踊る人形 (The Adventure of the Dancing Men)”
- 言語の推定 →→→→ 英語
- 方式の推定 →→→→ 単換え字式暗号(英文アルファベット (abc) → 人の形)
- 頻度の特徴 →→→→ 英語の頻度順: etaoin…
- 連接特徴 …………………… 文字が少ないので使えない
- 何度か現れるパターン →→ 登場人物の名
- 単語の区切り →→→→→→ 上記パターンがヒントになっている
- 出現しそうな単語 →→→→ 登場人物の名,脅迫文らしい単語
科学的に解読するとこうなる(一例).
- イギリスの小説なので,言語は英語であろう.やや古風な英語かもしれない.
- 読者は,単換え字式暗号しか知らない(または解読できない).
- 頻度が圧倒的に高い文字を,ひとまず e と推定する(“ee” という綴りがある).
- このとき,5 文字のパターンが 2 回現れることに気づく.
- それらのパターンが文末と文頭にあるので,単語の区切りマークがわかる.
- 2 文字の単語が 3 つあることが判明する(前置詞,動詞,代名詞のいずれか).
- それらは,“△□”,“△×”,“×○” の形をしている(2 個の△と 2 個の×はそれぞれ同じ文字).
- これと出現頻度から,文字 × がかなりの確度で推定できる.
- 単語“×○” から,文字 ○ は 1 通りしか考えられない.
- 2単語の綴り“×○ □ee×” から,□ が推定できる.
- 単語“△□” から △ が推定でき,単語“△×” が使われそうな綴りなので,今までの推論が正しそうなことがわかる.
- ここから先は,登場人物の名と,依頼人の妻 Elsie の返事らしき 5 文字の(1 単語による)文が役に立つ.
欧米人の名や,古風な言い回しについての知識が必要かもしれない.検討を祈る! :-)
- システム UNIX にある words のような単語帳ファイルと,grep のようなパターン検索ツールが使えると便利だろう.
実際にこうして解読をしてみると,作者 Arthur Conan Doyle が周到に用意した暗号文であることがわかる.
小説の中での解読では,探偵 Sherlock Holmes はかなり強引な推定をしているが,
それは読者を退屈させないためなのだろう.
- 出典
- 初出: Arthur Conan Doyle, "The Adventure of the Dancing Men", Strand, 1903-12.
短篇集: Arthur Conan Doyle, "The Return of Sherlock Holmes".
[コナン・ドイル,延原謙(訳)『シャーロック・ホームズの帰還』新潮文庫 ト-3-2 (440),新潮社, 1953.]
演習問題
NISHIMURA, Kazuo (nishimura@komazawa-u.ac.jp)