暗号解読の一般的な手順(古典的)
- 言語の推定
- 方式の推定
- 文字頻度とその特徴
- 連接特徴(文字の連続のしかたと頻度)
- 何度か現れるパターン(単語かその一部)
- 出現しそうな単語 (probable words) の推定
- 単語の区切り(これがあると攻撃は容易)
改訂 2010-11-03; (C) K. Nishimura 2003
解読演習: “踊る人形 (The Dancing Men)”
状況説明 |
暗号文(図形) |
Elsie は卒倒する |
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農場内に 何度も書かれた 2行 |
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Elsie の返事か |
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最後の脅迫文 |
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探偵の偽造文 |
小説には,シャーロック・ホームズが描いた偽造文
も載っているが,ここではホームズになったつもり
で,上記の 4 つの暗号文だけで解読をする.
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(図:
出所の図を一部縮小した画像)
解読作業用紙.xlsx
(PDF)
- 言語の推定 →→→→ 英語
- 方式の推定 →→→→ 単換え字式暗号(英文アルファベット (abc) → 人の形)
- 頻度の特徴 →→→→ 英語の頻度順: etaoin…
- 連接特徴 …………………… 文字が少ないので使えない
- 何度か現れるパターン →→ 使われそうな単語
- 単語の区切り →→→→→→ 上記パターンがヒントになっている
- 出現しそうな単語 →→→→ 登場人物の名,脅迫文らしい単語
科学的に解読するとこうなる(一例).
講義ビデオ
(7:01〜1:12:52)
- イギリスの小説なので,言語は英語であろう.やや古風な英語かもしれない.
- 読者は,単換え字式暗号しか知らない(または解読できない).
- 頻度が圧倒的に高い文字を,ひとまず e と推定する(“ee” という綴りがある).
[人形の頻度]
- このとき,5 文字のパターンが 2 回現れることに気づく!?
- それらのパターンが文末と文頭にあるので,単語の区切りマークがわかる.
- 2 文字の単語が 3 つあることが判明する(前置詞,動詞,代名詞のいずれか).
[2 文字の英単語]
- それらは,“△□”,“△×”,“×○” の形をしている(2 個の △ と 2 個の × は,それぞれ同じ文字).
- これと出現頻度から,文字 × がかなりの確度で推定できる.
- すると,単語“×○” から,文字 ○ は 1 通りしか考えられない.
- 2単語の綴り“×○ □ee×” から,□ が推定できる.
- 単語“△□” から △ が推定でき,単語“△×” が使われそうな綴りなので,今までの推論が正しそうなことがわかる.
- ここから先は,登場人物の名と,依頼人の妻 Elsie の返事らしき 5 文字の(1 単語による)文が役に立つ.
欧米人の名や,古風な言い回し(聖書)についての知識が必要かもしれない.検討を祈る! :-)
[ヒント]
- [クロスワードパズルの単語検索システム]
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かつては,システム UNIX にある words のような単語帳ファイルと,grep のようなパターン検索ツールが使えると便利だった.
検索方法: telnet で UNIXマシンに接続し( open ramoth ),
cd /usr/dict …………… cd, ls, more
ls
more words
grep パターン words …………… 正規表現
暗号文の評価: 実際にこうして解読をしてみると,作者 Arthur Conan Doyle が周到に用意した暗号文であることがわかる.
小説中での解読では,探偵 Sherlock Holmes はかなり強引な推定をしているが,それは読者を退屈させないためなのだろう.
補足: 原文の主語“I”が省略されているのは,単語の文字数 1 から原字“i”が判明してしまうのを避けているのだと思われる.同様に冠詞“a”も避けている.長さ 3 文字の単語は“the”であることが多いが…….
ノート
- 鍵の一部は不明: 小説の中の暗号文では,全てのアルファベットは用いられていないので,8 つの英字 (f, j, k, q, u, w, x, z) はどういう人形に対応するのかが不明である.
- プログラムは不完全: Web を検索すると,英字列を入力して人形を出力するプログラムが多数あるが,それらの出力結果は Arthur Conan Doyle が意図したものではない.鍵の一部 (英字 f, j, k, q, u, w, x, z に対応する人形) は不明だからである.
- 注意: 原文が復元できたからといって,鍵全体が判明するとは限らない(一般には両者は一致しない).(Sherlock Holmes は,任意の原文から暗号文は作れなかったのだ.)
出典
- 初出: Arthur Conan Doyle, "The Dancing Men", The Strand Magazine, 1903-12.
- 再録短篇集: Arthur Conan Doyle, "The Adventure of the Dancing Men", The Return of Sherlock Holmes, The Strand Magazine, 1905.
[コナン・ドイル,延原謙(訳)『シャーロック・ホームズの帰還』新潮文庫 ト-3-2 (440),新潮社, 1953.]
演習問題
改訂 2020-11-15 ← 2015-11-22; (C) K. Nishimura 2003
NISHIMURA, Kazuo (nishimura@komazawa-u.ac.jp)