ある城の戦術的な構造を詳しく知って,はっきり記憶に留めるためには,
たぶん縄張り図作成がいちばん効果的でしょう.
縄張り図を描くと,築城者の設計意図がよくわかるのです.
ある時点の城の縄張り図を描いておけば,後の人の参考になります.
城をたくさん見ても,どんなに詳しく見ても,その人が死んでしまえば
ほとんど何も残りません.普通はせいぜい未整理の写真がたくさん.
もし城仲間とメールの交換をしていれば,見学の報告メールが少し残りますね.
でも,実際に見たものを言葉で表現するのはむずかしい.
Web ページの数枚の写真では,全体の構造を表現するのがむずかしい.
縄張り図なら,城の平面プランがよくわかります.ただし,多少の描き方の約束を知らないとそれを読み取ることができません.また,高さを正確に表現するのは苦手です.
鳥瞰図は,初心者に取り付きがよいのですが,縄張り図に比べて情報量が少なくなります.たとえば,裏側は分かりません.通路と土塁の正確な位置関係も分かりません.縄張り図から鳥瞰図を作ることはできますが,その逆はできないのです.ですから,せっかく測定したものを鳥瞰図にしてしまうのはもったいないことです.
縄張り図を描く人は少ないようです.
お近くの,縄張り図がまだない城跡の現状を記録し発表しておくことは,
将来の城ファンの役に立つでしょう.
でも,手を出さないほうがよいのかもしれません. こうして,趣味がだんだん仕事のようになってしまうと, 趣味が“楽しみ”でなくなってしまうかもしれませんからね.(^^;) とはいえ,縄張り図描きを楽しんでいる人は何人もいます.
縄張り図を描くには時間がかかります.当然,回れる城の数は減りますが,あなたがただ数が多ければよいと思っているのでないなら,それでも構わないでしょう.
このページを読んでいるあなたなら,きっと図面描きが楽しめることと思います!
縮尺は 1/1,000 が標準です
(10歩 → 10mm で記入すれば,ほぼこれくらいです).
コピー機で拡大・縮小は自由にできるので,地形図を利用しないなら,縮尺はあまり気にする必要はありません.
大きな城を描くときは,1/2,000 などにすることもあります.
精度: 千分の1ということは,10m → 10mm です.
0.1m → 0.1mm ですから,10cm の差はもう判別できないので,測定時にこれ以上の精度は不要です.
図面を描いたらすぐ 100m(または 50m)のスケールを記入します. 歩測で描く場合は,図面上での 100m スケールがどれだけの長さになるかを知る必要があります(これは,1度だけ計算すればよいです).
公式: 100 / 歩幅(m) = スケールの長さ(mm)
例: 1歩 = 75cm の人が,10歩 → 10mm で記入すれば,図上の 133mm の線分が 100m のスケールになります(100/0.75 ≒ 133).
距離と方位を使って作図します. 直線的な土塁の稜線があったとき,その長さに対応する線分を紙上のその方向に描けばよいのです. 方向がまちまちにならないように,図上の北の方角を一定に保つ必要があります.
白紙を目の前にすると,何をしてよいかわからなくて,1時間ほどボォ〜〜としてしまうでしょう.(^^;) ですから,とっかかりの部分だけ要領を書いておきます.
言葉で説明してもわかりにくいので,ぜひ実際にやってみてください.
近所の公園や庭園などでも,十分練習になります.
地形に凹凸がなくても,スケール感が養われるでしょう.
実地の例(画像)
参考: 私は,1/1,000(または自分の歩幅に合わせた縮尺)に拡大した地形図を下敷きにして描くと楽だと思います.
図を描いたら,すぐに次のものを記入しておきます.
清書とは,鉛筆のスケッチを事後にペンで仕上げることです(“浄書”とも呼ぶようです). 描き方については『城館調査ハンドブック』や多くの事例を参照してください.
通常は,こういう約束があります.
ケバは,現地で斜面の下り方向に引きます(したがって,等高線とは直角になります).
ケバの入れ方について,細かい取決めはないようです.
しかし,中世城郭研究会の西股総生氏は“壁の高さをケバの長さで表現し,傾斜をケバの密度で表現しないものは縄張図とは呼べない”と言っています [参考文献 5.].
国土地理院の 1/25,000 地形図は,等高線が標高 10m ごとで粗く,縄張り図作成にはかなり不足. それを基にした市販の市街図や,ロードマップも同様です.
国土地理院の 1/25,000 地形図より詳しい地図は, 現地の役場にあります.都内の地図なら日本橋の“ぶよお堂”にも.
ぶよお堂(武揚堂):
日本橋 3-8-16(高島屋の1本南の路地), 0120-72-2410, 03-3271-2451 (平日: 10〜19時,土: 10〜17時, 日祭休).
役場の入手先は(『城館調査ハンドブック』 p.153 によれば):
初めて行く城で,あらかじめこういう地図を用意するのは困難ですね. 行くのがだいたい土日なので,役場は閉まっているでしょうし……. でも,役場に電話で問い合わせると,送ってくれることが多いようです.
〈中級者向き〉 しかし,出版されている図でも西偏を考慮していないものがある(地形図の等高線に対して城の縄張りが時計方向に回転しているので分かる).
方位について,磁北は真北より西にほぼ 7 度ずれています. ずれの量はけっこう大きく,方位と角度を正確に測定するようになると,考慮する必要がでてきます.
ずれ量は,図面上の 10cm に対して直角方向に 1.2cm にもなります(tan 7°≒ 0.123 ).
西偏の量は,地域によって異なります.正確な量は国土地理院の地形図の枠外に載っています.オンラインにもあります→
磁気偏角.
北海道が 10 度で最大,沖縄が 4 度で最小です.しかし,本州から九州までは 8〜6 度ですから,7 度に設定していれば大きくは狂いません.
1 度のずれ量は,10cm に対して直角方向に 0.2cm です(tan 1°≒ 0.017 ).
実際には,図面上に磁石を止めるとき,磁北の向きを左(反時計方向)に 7 度ずらすだけでよいのです.
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