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改訂 2024-01-19
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このページは,髙田徹氏のご寄稿によります.
(Copyright T. Takada 2003-09-09)

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■ 各地の城郭研究団体の会誌などについて

I 各会および会誌の概況

 各地方にはそれぞれ城郭研究・調査を行っている諸団体が存在する。それらの諸団体は、会としての活動の一環として会誌・会報等を発刊していることが多い。それらを見ることで、各地域の城郭研究の最新動向を知ることがおよそ可能になる。それらには最新の調査成果による各地の城郭縄張り図が掲載されていることも多いのである。ここでは主要な会とその会誌等について紹介しよう。Web ページが設けられている会では、会誌についての詳細が紹介されているものもあるので、併せて検索してみるとよい。

中世城郭研究会  まず、城郭研究に関する雑誌として第一に挙げるべき存在は、中世城郭研究会 による『中世城郭研究』である。昭和 62 年の創刊以来(2003 年現在)17 号まで刊行されている。会誌名は『中世城郭研究』だが、内容は古代から幕末までと幅広い。毎号掲載の関口和也編「城郭関係文献リスト」は城郭に関する発掘調査報告書・論文・報告・図録・レジュメなどを広く収録しており、非常に有益である。また、毎年 8 月第一土・日に同会主催で行われる 全国城郭研究者セミナー の前年度の報告要旨・シンポジュウム概要も掲載され、これも各テーマごとの最新の研究状況を知りやすいものとしている。セミナーの資料集も縄張り図など、毎回充実したものとなっている。『中世城郭研究』に掲載されるセミナー報告はいわばエッセンスでもあるので、各報告の詳細を知りたい方は併せてセミナー資料集の入手をお勧めする。
 なお、『中世城郭研究』の別冊とでも言うべき、『縄張り図とともに』は、同会の 20 周年記念誌である。同会の 20 年を振り返った会員及び識者のコメントや座談会が中心に掲載されるが、過去の縄張り研究の足取りを知る上では、読み物としても面白い一冊となっている。
 同書の取扱いは、六一書房(〒101-0064 東京都千代田区猿楽町 1-7-1 高橋ビル1F)または同会の 刊行物案内ページ まで。
 また、中世城郭研究会の主要メンバーである倭城址研究会による『倭城 I』は、倭城研究の先鞭を付けた良書である。ただ、残念ながら現在では品切れとなっている。
城館史料学会  城館史料学会の会誌は『城館史料学』。2003 年 7 月に創刊号が発刊された、まだ生まれて間もない会である。同誌の設立趣旨によれば「城館の遺構を対象とした研究を深め、歴史学において基礎の一つとなり得る新たな史料学を確立することを目標」としているという。
 問合せ先: 同会事務局(〒812-8581 福岡市東区箱崎 6-10-1 九州大学大学院人間環境学研究都市・建築部門建築史教室 木島孝之方).
織豊期城郭研究会  近年では考古学からの城郭研究の進展には目覚ましいものがある。考古学の立場から、織豊期の城郭研究論文を掲載するものとして、織豊期城郭研究会『織豊城郭』を挙げることができる。平成 6 年の創刊以来、10 号まで刊行された。各号とも、その前年に行われた研究集会の内容を踏まえた特集を組んだものとなっており、瓦・石垣・天守台・礎石建物などを扱っている。
 問合せ先: 同会事務局(〒520-3222 滋賀県甲賀郡甲西町吉永 244-93 木戸雅寿方).
 また、同会ではこれまで資料集『織豊期城郭の瓦』を初め、第 1〜10 回の研究集会資料集も発刊している。内容的には『織豊城郭』と重なる部分が多いが、図版などは資料集の方が充実している。特に第 8 回の礎石建物に関する資料集は各地の城郭で検出された礎石建物が収録されている。これも『織豊城郭』と併せて目を通されることをお勧めしたい。なお、当会は現在、活動休止中となっている。
 当会は、2011 年から 10 年を限って、新メンバーで継続していた.(管理人)
岩手の館研究会  岩手県内の古代から近世にかけての城館を考古学の成果を取り入れながら研究を進めるのは、岩手の館研究会の『館研究』。平成 10 年に創刊され、(2003 年現在)2 号まで刊行されている。内容は城館に関するものが多いが、都市・集落遺跡に関する研究も収録されている。
 問合せ先: 同会事務局(〒020-0066 岩手県盛岡市上田 3-9-30 室野秀文方).
千葉城郭研究会  千葉県内の城郭を中心とする諸研究を掲載するのは、千葉城郭研究会 の『千葉城郭研究』。平成元年に創刊され、(2003 年現在)6 号まで刊行。論文・研究ノートのほか、県内各地区の城郭研究史や文献目録も収録している。
 問合せ先: 同会事務局(〒283-0802 千葉県東金市東金 29-1 遠山成一方).
 なお、同会が出版した『図説房総の城郭』(国書刊行会, 2002 年)は、千葉県内各地区の代表的な城郭を取り上げ、図版も豊富に用いながら、大変読みやすい内容となっている。
北陸城郭研究会  北陸地方の城郭調査・研究を中心に活動しているのは、北陸城郭研究会。当初、富山の城を考える会として結成され、その後現在の会名となった。会誌『北陸の中世城郭』は、平成 3 年に『越中の中世城郭』として創刊され、第 5 号から現在の会誌名となり、(2003 年現在)13 号まで刊行されている。内容は、当初は富山県内の城郭研究が中心であったが、近年では石川・福井・新潟・長野県の城郭を取り扱う論考もみられる。
 同書の問合せ先: 同会
静岡古城研究会  静岡県を中心に活動する静岡古城研究会の会誌は『古城』。昭和 49 年の創刊以来(2020 年現在)64 号まで刊行。内容は静岡県内の城郭の縄張り研究・文献研究が中心だが、隣県の山梨・愛知・岐阜県の城郭研究に触れたものも含まれる。また、会誌とは別に『東照宮御陣場』など、特定の城館の調査報告書の発刊も行っている。
 問合せ先: 同会(〒411-0024 三島市若松町4633-1 サンクレストA 望月保宏方).
 問合せ先と『古城』の刊行号数を更新した.(2021-02-28 管理人)
愛知中世城郭研究会  愛知県教育委員会の城郭分布調査を契機に設立されたのが、愛知中世城郭研究会。会誌は『愛城研究報告』であり、平成 6 年の創刊以来(2003 年現在)7 号まで刊行。内容は、愛知県の城郭研究もあるが、むしろ他地域の城郭研究のほうが多い傾向になっている。また、同会では県内の市町村単位で分布調査を行っており、これまで『瀬戸の中世城館』・『豊田の中世城館』・『藤岡・小原・旭の中世城館』・『豊橋・豊川の中・近世城館』をそれぞれ発刊している。
 問合せ先: 同会事務局(〒444-0813 愛知県岡崎市羽根町若宮 3-6 奥田敏春方).
関西城郭研究会  関西地方を中心に活動する関西城郭研究会の会誌は『城』。昭和 38 年の創刊以来(2003 年現在)183 号まで刊行されている。内容は一冊一題形式となっており、同会で毎年 2 回行われるセミナーの報告や、戦前の城郭研究の流れをまとめたものなど、多岐にわたっている。なお、近年までは同会の見学会用に使用された資料集は、各城館の文献をコンパクトにまとめている。
 問合せ先: 同会事務局(〒653-0814 神戸市長田区池田広町 17-7 藤田武男方).
戦乱の空間編集会  中国・四国地方の城郭を扱う、戦乱の空間編集会の会誌は『戦乱の空間』。平成 14 年の創刊というまだ新しい会で、(2003 年現在)2 号まで刊行。従来中国・四国方面では城郭に関する専門雑誌がなかっただけに今後の活躍が楽しみである。なお、同会は城郭だけではなく、武器・武具などに関する調査・研究もその対象としているという。
 問合せ先: 同会事務局(〒799-1331 愛媛県東予市新町 226 日和佐宣正方).
南九州城郭談話会  熊本・鹿児島・宮崎県の城郭研究を中心に進める 南九州城郭談話会 の会誌は『南九州城郭研究』。平成 11 年に創刊され、(2003 年現在)2 号まで刊行されている。
 問合せ先: 同会事務局(〒897-0302 鹿児島県川辺郡知覧町郡 17880 ミュージアム知覧気付 上田耕方).
 なお、会報『南九州の城郭』は、発掘調査速報なども掲載されている。
城郭談話会  文禄・慶長の役に豊臣秀吉軍が朝鮮半島南沿岸部を中心に築いた城郭、倭城を専門に取り扱う雑誌として、城郭談話会『倭城の研究』がある。平成 9 年の創刊以来(2003 年現在)5 号まで刊行。内容は倭城の縄張り・瓦・陶磁器などの考古学的調査・研究のほか、近年の倭城を取り巻く状況などについても触れられている。
 同書の取扱い: 岩田書院(〒157-0062 東京都世田谷区南烏山 4-25-6-103).
 また、城郭談話会では一つの城郭を縄張り研究・考古学的研究・文献史学的研究などから多角的に検討を深める本も刊行している。これまで、『但馬竹田城』・『播磨利神城』・『淡路洲本城』・『因幡若桜鬼ヶ城』・『大和高取城』の 5 冊が刊行されている。
 同書の取扱い: 同会
品切れであるが、同会の 10 周年記念誌『城郭研究の軌跡と展望』は各テーマごとに硬軟含めた論考が多く掲載され、同会の設立状況などがおもしろおかしく(?)記述されている。
越後の山城を歩く会  越後の山城を歩く会の会報『越後山城通信』では、同会の踏査会の報告や討議された内容が多く掲載されている。
 連絡先: 〒940-0072 新潟県長岡市柳原町 2-1 長岡市立科学館 広井造方.
伊勢中世史研究会  伊勢中世史研究会の会報『伊勢の中世』は、県内の中世城郭の調査を中心に古道や石像物の調査など、対象とする範囲は広い。なお、同会では以前新人物往来社から発刊されていた『中世都市研究』1〜8 にならい、都市・城館研究の文献・報告会などを『東海の中世史・考古学情報』として新たにまとめ始めている。東海 4 県の城郭研究の動向をほぼ把握できるものであり、非常に便利である。
 連絡先: 〒515-2305 三重県一志郡嬉野町一志 75-26 竹田憲治方.
伊賀中世城館調査会  伊賀中世城館調査会の「古城雑記」。同会は伊賀地域を中心に継続して城郭調査を進めている。新たな城郭の発見と、過去に調査した城郭の追加・確認調査を一貫して進めている、そのたゆみない姿勢には頭が下がる。
 なお、同会はこれまで伊賀地域の城館調査を集成した『伊賀の中世城館』のほか、他地域の城郭調査図を集成した『城館調査の記録』を発行している。特に前者は県教育委員会による分布調査報告書や『日本城郭大系』よりも城郭数・縄張り図とも、格段に充実しており、伊賀地域の城郭を調査・研究する上では必見である。
 連絡先: 〒518-0072 三重県上野市生琉里 908-25 福井健二方.
岐阜県中世城館研究会  岐阜県中世城館研究会の会報は、その名の通り『会報』である。短編の論考のほか、県内の発掘調査情報などが主に掲載されている。現在、休刊中のようであるが、その再開が望まれる。
 連絡先: 〒509-7125 岐阜県恵那市椋実 1074-1 三宅唯美方.
和歌山城郭調査研究会  和歌山城郭調査研究会 の会報は『紀州古城館情報』で、県内の城郭調査事例や発掘情報などが盛り込まれる。最近では同会は会誌『和歌山城郭研究』も発刊しており、県内各地区の城郭調査特集を組んでいる。
 連絡先: 〒641-0051 和歌山市東高松 3-6-16 白石博則方.
北部九州中近世城郭研究会  北部九州中近世城郭研究会の情報紙は『北部九州中近世城郭』である。福岡・長崎・佐賀・大分・熊本を中心とした城郭調査を主に対象としている。
 連絡先: 〒807-0831 北九州市八幡西区則松 6-22-8 中村修身方
古代山城研究会  古代山城に関する調査・研究を掲載するものとして、古代山城研究会の『溝婁』(コル) がある。
 連絡先: 〒192-0363 東京都八王子市別所 2-16-2-804 向井一雄方.

 また、各地には様々な研究団体等があって、それらで城郭研究の特集が組まれたり、個別論考・報告として城郭に関するものが掲載されることも多くなった。これについては個別に挙げることは控えるが、年度年度の城郭関係論文を集成した前記『中世城郭研究』の関口和也「城郭関係文献リスト」が最も充実しており、検索するのにも便利である。また、戦前の城郭研究論文については、森山英一「城郭研究文献層目録」『中世城郭研究』16・17が網羅的に掲載しており、資料として極めて重宝する。

 このほか、個人の自費出版ではあるが、近藤薫『城門』シリーズは、各地の城郭に残る城門を集成したものである。特に、廃城後などに城外へ移築された城門、その伝承を有する城門も多く掲載している。現在、東海、中部、近畿、中国・四国、北海道・東北、諸国江戸藩邸、愛知、旗本編の 8 冊が刊行されている。このような類書は他にないことに加え、収録城門の中には既に失われたものも含んでいるから、城門資料集という観点からも貴重である。今後の続編の発刊が待ち望まれる。本書は基本的に非売品であるが、希望者は(〒486-0821 愛知県春日井市神領町 236-37 近藤薫方)に一応問い合わせてみるとよい。

 同様に、移築建造物の平面実測図の資料集として、城郭研究の先達である崎田欣二・坪井欣也両氏による『城郭移築建造物調査図面集』がある。各遺構の規模や構造がよくわかり、これも貴重な資料となる。同氏らは既に『城郭移築建造物調査報告書』広島・岡山編も刊行しており、移築建造物の詳細を伝えてくれる。

 各会誌等とも号数によっては品切れのものもある。その点の確認・価格・購入方法などについてはそれぞれ問い合わせる必要がある。蛇足なようではあるが、これらの会の活動の大半は営利を目的するものではない。その点を踏まえた上で問合せに際しては、返信用切手同封か往復葉書を用いるなど、相手先に負担がかからないよう最低限のエチケットは守ってもらえるよう、お願いしたい。


II 書籍の購入方法について

 城郭関係の雑誌類がほぼ一括して購入できる機会として、先述の 全国城郭研究者セミナー が挙げられる。セミナーは毎年開催地がかわるが、原則として 8 月の第一土・日に行われる。参加希望者は、日程・報告内容などについて 中世城郭研究会の Web ページ を検索してみるとよい。

 また、「しろはく」古地図と城の博物館 富原文庫(〒174-0043 東京都板橋区坂下1-4-10-101)では、毎年一回図書交換会が行われ、城郭に関する様々な多数の書籍を購入することができる。これらの中には、入手困難な発掘調査報告書や絶版の書籍なども多い。ちなみに、同文庫では戦前の中世城郭の絵葉書集や絵図集の発刊なども逐次行っている。

 城郭関係の発掘調査報告書であれば、日本考古学協会 の総会・大会の図書交換会で購入可能なものもある。これも開催場所は毎年異なるので、同会の Web ページを検索してみるとよい。


III 縄張り図の取り扱いについて

 先に述べた書籍には多くの縄張り図が掲載されており、訪れたことのない城郭が現在どの程度残っているのかを事前に把握したり、あるいは初めて訪ねた城で見落としなく、効率的に見学する際に重宝する。個人で城郭を訪ねる際には、関連部分をコピーして現地で比べながら見学すると、作図者が個々の遺構をどのように評価したのかがよくわかる。複数の縄張り図が既に公表されている城郭であれば、それらを併せて持参し、現地で比べてみるのも楽しい。作図者の癖や評価の度合いも自ずとわかってくる。
 ただ、これらの縄張り図はそれぞれの作成者が時間と手間をかけて、手弁当で作成したものが大半である。かつて「一枚の縄張り図は一つの論文に匹敵する」といったことも言われこともあった。
 論文・書籍・インターネットなどで、過去の公刊(開示)された先人の成果を活用することは、それぞれの縄張り図の資料化という点で私としては良いことだと思うし、歓迎したいと思う。
 しかし、その際には最低限出典と作図者名を明記するエチケットだけは守って欲しい。時折無注記で図を引用し、着色するなどの加工を行ったり、場合によってはトレースを行っただけで自己の縄張り図として公表するような悪質なケースも見かけるようになった。無注記で図を引用するようなことは悪気がないことが多いであろうが、最低限のエチケットを怠ると Web ページを見た第三者は、そこに掲載された縄張り図も Web ページ管理人が作成したと誤解しかねない。また、見やすくするということで着色するのも心情的に理解できる部分はあるが、着色という行為自体が既に一定の評価を加味して行われていることを自覚すべきである。
 個人が楽しむだけなら、それでもよい。ただ、インターネットでは不特定多数の人間がそれを見聞できる状況にある。悪気が無くても安易に図を使用したり、改変することは少なからず作図者(セットになる文章も含めて)の著作権を侵している。これは決して難しいことではなく、これまで城郭研究者は多くの論文・書籍の中でこうしたルールを守ってきた。要は先行研究や 1 枚の図の存在価値をもっと評価することが必要なのである。そのルールを守って引用・転載すれば、何も問題が生じることはない。

 城に関する Web ページは今日、随分多い。ただ、そこではやはり先行研究の位置づけがどうしてもおざなりになる傾向があるし、ややもするとどのページをみても変わり映えしない内容が多いのとの印象を免れることはできない。お遊びと割り切るのならそれもよいかも知れないが、少なくともそれぞれの作者にこだわりや自覚があるのならば先行研究にも目を通したり、正当に評価し、その成果のどこからどこまでを頼ったのか、どこからどこまでが Web ページ管理人のオリジナリティなのかを明らかにしていく姿勢が求められてくると思われる。


* このページは、拙稿「この本を読めば城郭のここがわかる」(中井均編『城を歩く〜その調べ方、楽しみ方〜』新人物往来社,平成 15 年)の一部に加筆したものです。(髙田徹)

** このページの体裁とリンク先・問合せ先は、現状に合わせて一部変更しています。(管理人)

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